お庭の思い出物語

 

私は庭師の仕事をしております。

職業柄、お客さん(おじいちゃん、おばあちゃん)とお話をする機会が多くあり、

楽しい話、苦労した話、庭に関する思い出など、皆さんひとりひとりにいい物語があります。

そこで、その物語を1000文字程度でご紹介してみたいと思います。

今回は、庭好きなお父さんと一緒に庭を作ったおじいちゃんのお話です

 

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お庭の思い出物語

お庭の思い出物語 第2話

お庭の思い出物語 第3話 (庭木を盆栽に)

 

 

第4話       Kさん

 

「待っていましたよ」

「来てくれてありがとうね」

 

庭の剪定時期になると、いつも年末近くまで待って頂いているお客様

85歳になるおじいちゃん、おばあちゃんと息子さんが住んでいる

 

おじいちゃんが、枯山水の大きな庭を眺めながら

「今年も息子に剪定してもらったよ」

と嬉しそうに話しはじめた

(私の作業内容が、松7本の手入れとなっていて、ほかの木は自分たちで管理している)

 

「わしは、もうとしだから脚立にはあがれない」

おじいちゃんは2年前まで、自分で庭木の剪定を行っていた

剪定中に脚立から落ちてしまい、現在は息子さんに庭の管理を任せているのである

家族で大切にしているこの庭は、おじいちゃんとおじいちゃんのお父さんで作った、思い出のつまった庭なのだ

 

「ほんと庭なんて嫌いだった」

意外にもそう話すおじいちゃん

おじいちゃんが小さな頃、庭好きのお父さんに連れられて、よく山へ入ったそうだ

トラックへ石や木を積み込んで、休みになるたびに庭作りの日々を送っていたのだ

 

「石を運ぶのが嫌で嫌でしょうがなかったんだ」

庭に興味のないおじいちゃんは、重たい石の何がいいのか理解できなかった

また、庭の剪定や管理も任されてしまい、若い頃はあまり遊ぶこともできず、庭が大嫌いだったのだ

 

遊びに行きたくて行きたくて、よく夜に抜け出してはスーパー銭湯に通っていたそうだ

「いつも母ちゃんが心配してたんよ」

と笑いながら話すおじいちゃん

当時、スーパー銭湯ができたばかりで、お母さんはいかがわしいところだと勘違いして、ついてきたのだった

 

そんな会話で盛り上がり、とても上機嫌なおじいちゃん

 

「庭なんて好きじゃなかったのに、親父が亡くなり20年余り、大切な趣味になっていたよ」

そう話ながら、庭好きのお父さんを思い出しているようだった

 

その後、少し寂しそうに

「わしはもう、庭の管理をすることができない。そうかといって、息子にやっかいな庭を残すつもりもない」

庭で大変な思いをした、おじいちゃんらしい言葉だった

 

目には涙が溜まっている

おじいちゃんにとって、父との思い出のつまった庭を、取り壊す決断には勇気がいったのであろう

私も目頭が熱くなった

 

「自分が楽しめるように、小さな盆栽にしてくれないか?」

お父さんとの思い出のつまった庭を盆栽にして、最後まで自分で管理をすることに決めていたようだ

 

「是非とも思い出の庭木を盆栽にしましょう。全力で協力しますから」

私は即答で返事をした

お庭を大切にしている、おじいちゃんの力になれることが、とても嬉しかったのだった

 

大切な庭はなくなってしまったが

思い出の庭木はいつもそばに…

 

「思い出の庭木を小さな盆栽に」

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